その手に触れたくて

そのまま視線を自分の足元へと落とすと、


「行こっ!」

「えっ…、」

夏美はあたしの腕を掴んで引っ張りながら足を進めて行く。

もつれそうになる足を進め夏美は隼人の近くで立ち止まった。


「ねぇ…、ちょっといいかな?」


不意に聞こえた低い声に目線を向けると、剛くんはドアに腕を付き、A組の教室を覗き込んでいた。


少ししてA組から姿を現したのは、どー見ても相沢さんで…、その隣に居る人物に思わず目を見開いた。



…宮本くん。


これってヤバいかも。って言うか確実にヤバいんじゃないの?


「あのさぁー…、何でこんな事になってんの?って言うか、声掛けたのどっち?」

「…俺です」


剛くんのトゲのある声の後、宮本くんは怯える様子もなくそう答える。

その宮本くんの後ろで相沢さんは唇を噛み締めたまま俯いている。


その光景を見て思わずあたしは自分の腕を擦った。

こういう修羅場は好きじゃない。

そもそも隼人でさえ、止めようとしなければ他にいる数名は怯えている感じだ。


< 82 / 610 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop