その手に触れたくて

「別に殴る気なんかねぇよ。正直ムカついたけど、香奈が俺より惚れる男を見たかっただけ。前にも言ったけど今、一番大事なのは自分自身。だから香奈を一番にする事は出来ねぇ…」


剛くんはそう言って相沢さんに背を向け、軽く手を上げた。

それがまるでバイバイ…って言ってるように見えた。


あたしの前を通り過ぎると隼人はクスクス笑いながら剛くんの肩に手を置き、足を進めて行く。


「何か奢ってやろーか?」

「いらね」

「もう帰んの?」

「…ったりめーだろ」

「お前もさ、悪ばっかやってねぇで高校くらい行けよ」

「てめぇに言われたくねぇよ」


隼人と剛くんの声が遠ざかっていく中、あたしは隼人の背中を無意識に見ていた。


と言うよりも相沢さん達を見ながら、あたしの視界にはずっと隼人が映ってた気がする。


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