廃陸の旅団
カムイがいなくなったことに気付いた二人も声のする方へと走る。
その声の発生地点に行くとそこは小さな本屋の前だった。
今時珍しい旧式のローブをまとった老人が地面に倒れている。
「おじいさん。大丈夫ですか?」
カムイが抱えあげると老人は腹部を押さえていた。
どうやら倒れた時にお腹を強く打ったらしい。
「おじいちゃんお腹痛いの?すぐ治すからね。『ヒール』」
マールがすぐに治癒術を使うと老人は痛みが引いたのか自分で体を起こし、辺りをキョロキョロと見渡し何かを探している様だ。
「じいさん、探してるのこれか?」
ジンはすぐ側に落ちていた分厚い本を渡す。
「おお、これじゃこれじゃ。すまんな。」
よほど大事な本なのだろうか、老人はジンから渡された本を何度も何度もローブの袖で拭いている。
「おじいちゃん、それ何の本?何かの辞書?」
「これはワシが五十年の月日を費やして書いた『呪術百選とその対策』じゃよ。」
マールは渡された重い本をパラパラとめくってみた。
そこには、ある呪術が創造されるまでの歴史的背景や創造過程、会得難易度や使用方法、そして防御する為の相殺呪術まで事細かに書かれていた。
「すごーい。けど何か読んでると疲れちゃいそうだね。」
マールはそう言いながら本を老人に返した。
「ふむ。しかし素晴らしい治癒術だな。……これほどまでのはアヤツ以外に見たことがない。お穣さん助かったよ。」
老人はマールに小さく頭を下げた。
「良いんですよぉ。困ッタ人ヲ助ケルノガ我々ガ神ニヨリ与エラレタ使命ナノデスカラ。」
聖女の様なことを言っているが、気持ちが込められていない棒読みだった。
「ふむ。助けてもらった礼でもしよう。三人共うちにきなさい。」
老人はそう言うと街外れの小さな家へと三人を招いた。