廃陸の旅団

ジンは潰された両腕の痛みで気を失いそうになるのを必死で堪えてはいたが。

もはや鎖を持つことすらできない。

「"氷空"のジン。鎖の呪結界を操るフォースマスター。所持するのは自らのフォースで発現したこの鎖のみ。つまりあなたは両腕を潰して鎖を使えなくしてしまえば終わりということ。」

グリアはゆっくりとハンマーをジンの胸にあてがう。

そのフォース圧だけでも心臓を潰されてしまいそうな錯覚に陥る。

「あの中で一番弱い私でも簡単に殺すことができる。さようなら弱き人間。」

グリアがハンマーを打ち下ろす。

「――!?」

ジンの身体がガラスの様に細かく砕け散った。

グリアがその欠けらを手に取ると、みるみるうちに冷気を失い、手の平の中で水になった。

「これは氷!?……しまった。」

チャリッと鎖の擦れる音が聞こえた時にはもう遅かった。

「ニーヴァスってのはけっこうおしゃべりなんだな。」

どこからともなく飛んできた鎖がグリアの口を塞いでいた。

そしてグリアの目には、あらぶる吹雪の中で何百もの狼の姿が見えていた。

「『なぜだ私は確かに結界を破ったはず』って言いたげな顔をしているぜ?確かにお前は結界をかわしオレに一撃をくらわした。でも、地面に打ち付けられる瞬間にオレは自分のまわりに結界をはったんだよ。」

グリアはジンの左手が全く機能していないことに気が付いた。

「見た感じお前は超接近して戦うタイプに見えたからな。自分のまわりに結界をはっておけばオレに止めをさしにきたお前は必ず結界に入ると確信した。で、アンタはまんまと作戦にはまったってわけ。」

パチンとジンが指を鳴らすと、狼の群れが一斉にグリアに襲い掛かった。

鎖で縛られたグリアは、のたうち回ることも恐怖に叫び声をあげることもできずに、力尽きた。



< 279 / 583 >

この作品をシェア

pagetop