廃陸の旅団

フォースを使えないはずのアストンが詠唱を始める。

「何をふざけているんだ?お前に呪術は使えないはずだろう。」

ニーガルの睨みにもアストンは詠唱を続ける。

「我が弟ながら理解に苦しむな。この状況で使えない呪術にすがるとは……」

ニーガルの臨戦態勢がわずかに解けるのをアストンは決して見逃さなかった。

アストンの瞳の奥が光り、それに呼応するかの様に、破壊された矢の欠片が光を放つ。

「――なっ、んだと!?」

油断から回避が遅れたニーガルを、アストンの結界が容易に捕える。

「――飲み込め『ノア-新生の奔流-』」

噴き出した奔流がニーガルの身体の自由を奪い、高速回転する激流に巻き込む。

複雑な流れは標的を切り刻み、更に水圧で圧砕する。

次の瞬間、ニーガルのカオス・フィールドが解け、視界が晴れ渡った。

「やったのかアストン?」

ジンが負傷した身体を引きずりながらアストンの元へと駆け寄る。

しかしアストンの表情は依然として曇ったままだった。

「分かりません……」

アストンは一瞬たりとも奔流から目を離そうとはしない。

「……にしてもオレと同じタイプの結界を使う術師がいるとは思わなかったよ。」

アニス戦で使った散鎖結界と同じ要領でアストンは結界を発動させたのだった。

「にしてもこんな強力な術を砕けた矢に込めたフォースで発動するなんて流石は……」

「ジンさん、油断しないでください。いくらスキを突けたからと言っても、兄さんをこの程度で倒せるはずがありません。」

アストンの懸念にジンが首を傾げた瞬間。

「全くもってその通りだよ。『双竜葬円舞-ソウリュウソウエンブ-』」







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