廃陸の旅団

オスカーの言葉にニーガルの動きが止まる。

ほんの一瞬の沈黙が、果てしないほどに長く感じた。

「今の軍がしようとしていることが果たして、民を守ることに繋がるか?」

ニーガルの額に冷たい汗が流れる。

触れて欲しくないトラウマに触れられてしまったかのように、ニーガルは顔を歪めていた。

「軍は世界の独裁者になりつつある。そこらの小国の様にブレインコントロールで支配してれば、まだ幾分かマシだが。軍がやろうとしているのは力による支配だ、違うか?」

がたがたと震えだしたニーガルを見下ろしながらもオスカーは続けた。

ニーガルはしきりに首をふっている。

それが、今のニーガルにできる精一杯の軍への信頼の証明だった。

「ブレインコントロールされりゃ愛国心まがいな感情も芽生えよう。しかし、どうだ。力によって服従させられる民は?軍を憎み、世界を嫌い、その尊い人生をも投げ捨ててしまうかもしれん。」

開かれた手から、2つの剣が零れ落ち、高い音を鳴らしながら地面に落ちた。


「……それが本当にお前の望むことなのか?」

ニーガルの呼吸が乱れ身体が痙攣しているように震える。

「私は……私は……」

いつもの凛としたニーガルの声はそこにはなかった。

蚊の羽音よりも小さく、かぼそい。

「私は……そんな曲がってしまった軍を、あるべき姿に正す為にも昇進しなければならない。その道のりに最愛の弟と刄を交えることがあろうとも、私は避けてなど通れないのだ!!」







< 337 / 583 >

この作品をシェア

pagetop