廃陸の旅団
オスカーの言葉にニーガルの動きが止まる。
ほんの一瞬の沈黙が、果てしないほどに長く感じた。
「今の軍がしようとしていることが果たして、民を守ることに繋がるか?」
ニーガルの額に冷たい汗が流れる。
触れて欲しくないトラウマに触れられてしまったかのように、ニーガルは顔を歪めていた。
「軍は世界の独裁者になりつつある。そこらの小国の様にブレインコントロールで支配してれば、まだ幾分かマシだが。軍がやろうとしているのは力による支配だ、違うか?」
がたがたと震えだしたニーガルを見下ろしながらもオスカーは続けた。
ニーガルはしきりに首をふっている。
それが、今のニーガルにできる精一杯の軍への信頼の証明だった。
「ブレインコントロールされりゃ愛国心まがいな感情も芽生えよう。しかし、どうだ。力によって服従させられる民は?軍を憎み、世界を嫌い、その尊い人生をも投げ捨ててしまうかもしれん。」
開かれた手から、2つの剣が零れ落ち、高い音を鳴らしながら地面に落ちた。
「……それが本当にお前の望むことなのか?」
ニーガルの呼吸が乱れ身体が痙攣しているように震える。
「私は……私は……」
いつもの凛としたニーガルの声はそこにはなかった。
蚊の羽音よりも小さく、かぼそい。
「私は……そんな曲がってしまった軍を、あるべき姿に正す為にも昇進しなければならない。その道のりに最愛の弟と刄を交えることがあろうとも、私は避けてなど通れないのだ!!」