廃陸の旅団
震える手で剣を拾うと、ニーガルが力なく立ち上がる。
再びオスカーにむかっていくニーガルの太刀は、素人目に見ても明らかに鈍っていた。
「オスカー!!あなたを殺せば昇進が確約される。そこの三人を殺せばもう一階級だ。私は、私は!!」
狂ったように止まる事無く剣を振るうニーガル。
オスカーの力ならもう、すぐにでも戦いに終止符をうてたことだろう。
しかしオスカーはあえてそれをしなかった。
そこは師弟としての絆がある。
オスカーは弟子の人生相談に乗るかのように優しく斬撃を受け流す。
「命を天秤に掛けるなんて戯れ言は好きじゃねぇがよ。最愛の弟を殺してまで、この世界を守るなんて、本当にお前の望んだことか?」
オスカーが言葉を発する度に、ニーガルの力強さがなくなっていく。
「私は民の為を思って全てを捨ててきた。やっと中将にまで上り詰めたんだ……総監の座にまであと少しだというのに。」
ニーガルのあの流れるような剣さばきはもはや面影もない。
子供が駄々をこねているかのように、ただ腕をところかまわず振り回しているだけ。
オスカーは切り掛かってきたニーガルの両手首を掴んだ。
「今からでも遅くない。こっちにこいニーガル。今、ハイマンスもスクルドの爺さんも動きだしてる。」
「総監とスクルド老師が……?」
震えるニーガルの手をオスカーは強く握り締める。
ニーガルはまるで子供のような瞳でオスカーを見ていた。
「そうだ。軍の暗部のことはハイマンスだってとっくに気付いていた。」
小さく首を振るニーガル。
「お前は総監になれば軍を変えれる。と言ったがそれは難しいだろう。何十万といる軍の人間の末端までを監視下に置くのは不可能だからだ。」
ニーガルは瞳をそらさずに、一言も発することなく、ただ首を振り続ける。
「早くから感付いていたハイマンスですら未だに実態は掴めていない。リーダーシップ、戦闘スキルに富み。更にハイマンスの目を欺けるほどの者がいるらしい。」