廃陸の旅団
「もし、軍に戻った時にイーブン・スフィアが手元にあると、研究材料として軍に徴収されてしまうかもしれません。」
アストンは手に光るスフィアをどこか誇らしげに見つめている。
「以前なら、研究されることが民の安寧や国の発展に繋がるからと身を投げだしたのかもしれませんが。最後に会話をした兄さんならそれは望まないでしょう。」
アストンはイーブン・スフィアをクロノに渡そうと、ゆっくりと手を伸ばす。
その時向かいの席に座っていたカムイが言う。
「だったら……それをクラナドの墓に供えさせてくれないか?」
「クラナド君の墓に……。」
しばしの沈黙。
アストンは考える。
自らの最善ではなくニーガルが思うであろう最善の策を。
「……うん、それがいいのかもしれない。彼を巻き込んでしまったのは軍だ、兄さんなら自分で責任を負うと言うだろうしね。」
カムイにイーブン・スフィアを託すアストン。
「それじゃあ僕はアンバー・タワーに戻ります。皆さんはこれからどうするんですか?」
椅子を立つアストンが皆に聞く。
まずはオスカーが答えた。
「俺は探し人がいるんでな、すぐにでもここをたつつもりだ。」
そしてマールが答える。
「私はカムイについていくだけだよ。どうせ私達お尋ね者だし。」
「だったらまずはクラナドの墓だな。」
ジンがそうマールに続くように言うとカムイがうなずいた。
「そうですか。それでは皆さん……いつかまたお会いしましょう。」
アストンがゆっくりと出ていき、しばらくするとオスカーも家を出ていった。
「クロノ。本当にお世話になりました。お元気で。」
カムイ達も旅立つ。
クロノの瞳がわずかに淋しさを孕んでいたのをカムイだけが気付いていた。