廃陸の旅団
所変わって、アンバー・タワー総合救護室。

軍内部の人間が怪我や病気、また呪術などで治療を必要とした際に治療を施す為の特別な施設である。

また、一般人には知られていないが軍の不祥事によって一般人に危害が及んだ際にもここが使われている。

巻き込んでしまった負傷者は公には行方不明として秘密裏の内にこの施設へと運ばれる。

そして治療を終えると、行方不明者を発見したとして、軍の不祥事が隠蔽されるだけでなく、あたかも軍がその人を救った様に仕立てあげるのだ。


「はぁ。今年度は年中無休か。過労死するかもな……マジで。」

あの後もこっぴどく叱られ続けたニーガルは、ふらふらになりながら救護室を訪れた。

大きな室内に細かく仕切られたベッド付きの診察室。

そこの一番奥でカムイが治療を受けていた。

「ご苦労さまですスクルド老師。どうですか?」

病室に入ると白衣を来た優しげな老人が治療をしていた。

「おや、これはニーガル中将。お久しぶりですなぁ。」

「そんな……大賢者と名を馳せたあなたの様な方が、私の様な若輩者に敬語などお使いにならないでください。」

スクルドはニーガルの困った様な顔を見て、愉快そうに笑う。

「何、今では遠い昔のことよ。事実あなたの方が階級も上なのですからね。」

スクルドはそう言うとカムイの背中の傷に眼を落とした。

「それはさておき、カムイ君でしたかな?彼は今私の治癒術で身体的損傷はほぼ完治致しました。ですが……」

「ですが……?」

スクルドはカムイを仰向けに寝かし直すと、やわらかく布団をかける。

「相当精神に負担をかけていたのでしょうな。この度の事件もそうですが、彼の場合には慢性的な心負担に思えます。」

スクルドはカルテに何かを書き込んでいく。

「こんな若者がこれほどまで衰弱してしまうとは、きっと我々には計り知れぬほどに過酷な日々を過ごしてきたのでしょうな……」

しわくちゃな眼差しの中慈愛と悲しみとが含まれていた。





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