廃陸の旅団
深い沼の底。

ハイマンスは遠い記憶のなかわずかな光を見ていた。

しかし手を伸ばしても伸ばしてもその光を掴むことができない。

ハイマンスはもがき続けた。

「……ンス。……マンス。」

どこかで自分を呼ぶ声がした。

沼の底で誰かが呼んでいるのだろうか?ハイマンスはこのまま実の娘に殺されるのも仕方がないと思い始めてしまっていた。

「ハイマンス坊。お前が生きることを諦めてしまうなら、それは仕方がない。じゃがな…最愛の娘が悪に手を染めたのを正さずに、坊は死に切れるのかな?」

どこからともなく死んだはずのスクルドの声がした。

スクルドの声はいつも温かく、傷付いた心も身体も癒してくれる。

しかし今ハイマンスに聞こえている声はいつもと違っていた。

「老師…私は。」

手を伸ばしたハイマンス。

その手を見えない手が優しく包み込んだ。

「ええんじゃ。お前さんは過去を省み過ぎる傾向がある。しかし今は、ローザスを救うことだけを考えれば良い。過去の過ちを反省し償うことは後からいくらでもできる。」

スクルドの優しい手が光り輝いた。

ハイマンスはやっと光を手にしたのだ。
< 543 / 583 >

この作品をシェア

pagetop