君とみた未来
「そ、そうだよね。い、行ったらまた結果聞かせてね」

無理に笑おうとしているあたしがいた。

「一緒に行くんだよ」


えっ。


今、なんて言った?


「一緒に行くんだよ。当たり前だろ。大の男が一人で、産婦人科に行けると思うか?」

恭平はネクタイをゆるめながら言った。

「だって、今、恭平自分で大丈夫大丈夫って」

「大丈夫だろーが、一人で行くなんて言ってないぞ」

恭平の目つきが少しずつ変わっていく。

「あたしが、一緒について行ったらあたしが変に見られるでしょ?」

あたしの右ほほがピクピク動く。

「俺一人のほうが変だろーが。お前っ、俺が一人であの受付に座ってるおばはん達(作者注・これは勝手に及川先生が思っているだけであって、作者の意思ではありません!)の白い目線に、一人で耐えろって言うのか?」

「若い女の人かもしれないじゃん」

「そういう問題じゃないだろ」

「恭平が言ったんじゃん!」

「そうじゃないだろ、そうじゃないだろ?冷たいやつだなぁ。そういう生徒には理科の点数下げてやるからな。それでもいいんだったら、一人で行ってやるよ」


ちょっと!


あたしは、テーブルをドンッっと叩いた。

「きったないよ。恭平の体と理科の点数は別もんでしょ!」

「教師に向かって、恭平と呼び捨てにしたな、今度のテストでマイナス十点だな」

「なんでよ!間違えてないのに、ひかれるわけ?」

「悔しかったら百点以上取ってみろ」

「キョ~ヘ~」

あたしは、声をワナワナ震わせながら、お腹の底から低い声を出した。

あたし達の言い合いは、だんだんくだらない低次元の争いになっていた。

ただ、二人の間では、それは物凄く真剣だったけど。

「樹理っ!恭平さんっ。ふざけるのはいいけどね、家も古い建物だからいつ底が抜けるか心配でね。あんた達に、新しく建て直す気持ちがあるのなら十二分にジャレてもらってけっこうだけどね、その気がないのなら、少し静かにしておくれよ、わかったかい」

いつの間に仕事から帰ってきたのか、母さんの怒鳴り声が聞こえてきた。


うるさいおばばじゃ。


「やーい。怒られてやんの」

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