君とみた未来
待合室で待っている間も、患者さんの来そうな気配はなかった。

「何だ、誰もいないんだったら、来るんじゃなかった」

あたしは、愚痴った。

「こら、結果論で言うんじゃない」


ふーんだ。


少しの間、椅子に座って待っていると、ドアの向こうから「服部さーん、入って下さーい」と、声が聞こえてきた。

ドキッ。

あたしの心臓がまた高鳴った。

「じゃ、行って来る、待ってろよ」

「え、帰るよ。こんなとこ一人でいたくないもん」

「じゃ、一緒に中に入れよ」


それもそーか。


恭平の病気もわかることだし。


「うん」

あたしは、恭平と一緒に【二番】とかかれている部屋の中に入った。

「失礼しまーす」

中に入ると、白衣をまとったちょっと白髪が目立つ年配の男の先生が、あたしに向かって話しかけた。

どことなく、俳優の宇津井健さんに似ていた。

「どうぞ座って下さい」

あたしは、恭平に促す。

恭平が椅子に座ると、先生が。

「あ、いえ。患者さんが座って下さい」

と言った。

「あの、患者は、俺なんです……」

恭平は、用紙の名前の訂正理由を先生に告げた。

「そうでしたか、まあ、確かに男性の方は、ほとんどお見えになりませんからね、だから問診表もほとんど空欄だったんですね。タバコとお酒は飲むって記入してあったので、驚いていたのですが、患者さんがあなたなら書かれていてもおかしくないですね」

先生は、カルテの名前を及川恭平と書き直しながら言った。

「及川恭平です。よろしくお願いします」

白髪交じりの先生は、名前を桜ヶ丘と名乗った。

桜ヶ丘先生は、カルテを見て質問をした。

「痛みと立ちくらみですか」

「えぇ。最近はないんですけど、以前立ちくらみがありまして。内科へ行ったんですけど……こちらの方へ行くように勧められたんです。あぁそうだ、紹介状も頂いたんですが、知り合いの方がこちらに勤務されているとかで」

と言って恭平は、紹介状を渡した。

紹介状の中を確認すると、桜ヶ丘先生は一瞬目を見張ったように瞳が大きくなったけど、鼻でフンっと笑い、紹介状を引き出しの中に閉まった。

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