君とみた未来
その知り合いだという先生は、半年くらい前に辞めてしまったらしく、今はいなかった。


連絡くらいとっとけ。


あたしは、心の中でののしった。

恭平は、今までのいきさつを簡単に一通り話していた。

「……そぉですか」

桜ヶ丘先生は、軽く言葉をかわすと、そのまま質問を続けた。

「その、痛みというのは、どこですか?」

「腹なんですよね」

「では、触診しますね。そちらの長椅子に横になっていただけますか」

「はい」

桜ヶ丘先生は、恭平のお腹の部分に手を置いて聞く。

「ここらへんですか?」

「いえ、もう少し下です」

「ここらへんですか?」

「いや、もう少し下かな」

「ここら……へん?」

「あ、先生そこはちょっと……」

桜ヶ丘先生は恭平の股間に手をあてていた。

「なにやってんだよ、おっさん。恭平の股間に手あてて楽しいのかよ」

あたしは慌てて、先生の手を払いのけていた。

「こ、こら樹理」


だって……。


恭平は、あたしをたしなめる。

「ゴホンッ。では、超音波で診てみましょう」

「はぁ」

「用意しますので、ズボンをおろして待っていて下さい」

「はぁ……」

「あたし、外に出てる……」

あたしは、すねた声をだして待合室に行った。

中で何をやっているのかわからないあたしは、不安に心を乱された。

でも、中にいる事の方が、今のあたしにはもっとイヤだった。


とりあえず癌じゃなければ、文句はないんだけど。


待つこと五分。

あたしの頭の中に、どうしても癌という言葉が離れなくなっていた。

恭平があたしの所へ戻って来た。

「帰ったかと思ったよ」

「帰るわけないでしょ。いちお、心配してるんだからね」

あたしは、恭平の肩にもたれかかった。

「サンキュ」

「どうだったの?」

「いや、まだわかんない。先生が少し外で待ってくれって」


まさか……。


それから十分ほどして看護士さんがまたあたし達を呼んだ。

今度は、あたしにも椅子を差し出してくれて、二人並んで桜ヶ丘先生の話を聞いた。

桜ヶ丘先生の顔は、青ざめているように見えた。
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