君とみた未来
「……及川さん、少し落ち着いて下さい。いいですか?女性の方だから、赤ちゃんが産めるんです……わかりますよね?赤ちゃんが出来てもいいように女性の方は、体つきがふっくらしているんです。男性には、そういう仕組みはないんです。第一、私だって未だに、男性であるあなたが、なぜこんなことになったのか……理解に苦しんでいるのですから」

「それは、俺だって同じです。すきで妊娠したんじゃありません。でも、先生が妊娠してるって言ったんですよ。俺だって怖いことは避けたいですよ。でも、俺には赤ちゃんがいるんですよね。女性に赤ちゃんが産めるんだったら、俺にだって赤ちゃん産めないことはないですよね。それに、俺に諦めさせて、もし違う男性が妊娠してまた病院に来たらどうするんですか。また、諦めさせるんですか?さっき、先生も俺に赤ちゃんを産んでもらいたくなくて言ってるわけじゃないって言いましたよね?」

「あれはっ、言葉のアヤで……」

恭平の瞳は真剣に見えた。

桜ヶ丘先生は、どう見ても理解に苦しんでいる表情だった。

あたしだって、恭平がなんでそこまで真剣なのかわかんない。

恭平の気持ちが、全くわからなかった。

「……少し、お待ちいただけますか」

そう言って、桜ヶ丘先生は、診察室を出て行った。

タバコでも吸いに行ったんだろぉか。

「あたし、飲み物買ってこよーか?ノド渇かない?」

「……俺も行くよ、ちょっと疲れた」

あたし達もとりあえず診察室を出て、待合室へ戻った。

「びっくりした」

あたしは、飲み物を買いながら、恭平に語りかけた。

「なんで?」

「あんなに真剣な恭平、見たことなかったから……」

「……そっか?」

「うん。はい、ジュース。学校の先生の恭平もあそこまで真剣じゃないよね」

恭平は、あたしのおでこをつついてから、あたしの肩に頭をもたれさせた。

「恭平、なんであんなこと言ったの?なんか、恭平が赤ちゃん産みたいって言ってるように聞こえたよ」

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