君とみた未来
「ちょっといろいろ考えてさ。出産したいって言ったら医者ってどんな反応するのかな?と思ってさ。賛成してくれる人、反対する人、いろいろいるわけだろ?なんにしても、信頼できる所と思った病院がいいなって。だから、最初中絶するっていう前に、産むって言ったら、どんな反応が返ってくるかなと思ってさ。中絶するのだって、信頼できなきゃ、怖くて手術やってほしくねぇだろ?」

「そっかぁ。そんなこと考えてたんだぁ……。びっくりしたよ、突然あんなこと言うんだもん。でも、すごいな、とも思ったんだよ」

「すごい?」

「うん……」

「なんで?」

「なんでかな……。なんか、すごいなって思ったの。あたしはこんな真剣に考えられるかなって。あたしがあんな風に言われちゃったら、きっと産むのやめちゃうんじゃないかなって。だから、恭平はすごいなって……」

恭平は、少し笑った。

「樹理に子供できたら中絶勧める医者なんていねーって。……俺なんて、すごかねーよ、腹かっさばいて元凶の元、早く取り出してーよ」

「……そうだよね」

「ま、さっきは冗談がきつかったからな。先生そーとー怒ってたもんな」

「そりゃあ、そうだよ。突然あんなこと言うんだもん。あたしだって驚いたんだから」

「大丈夫だって、次はちゃんと中絶の話しするよ。ちゃんと出来るかどうか聞かなきゃな」

それから十分くらい経って、看護士さんがあたし達を診察室の中に入るように言いに来てくれた。

あたし達は、また椅子に腰を下ろした。

腰を下ろすなり、桜ヶ丘先生は話しをはじめた。

「先ほどは取り乱してしまって申し訳ありませんでした。及川さんが、なぜそこまで産みたいのか、私には理解ができないのですが、うちでは、及川さんを出産させるための医療設備が整っていません。申し訳ありませんが、これ以上及川さんと話しをしても何も出来ませんので、お引取り下さい」

と言って、診察室を出て行ってしまった。


え?


出産させるための医療設備?


中絶は?


「ちょっと、まって!」

あたしは立ち上がって、桜ヶ丘先生を呼び止めたけど、先生は振り向きもせず行ってしまった。

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