君とみた未来
「恭~平~」

あたしは、両手で握りこぶしを作った。

「なんだよ、俺だってこんなことになるなんて思ってなかったよ。ちゃんと中絶の話しも聞こうと思ってたんだぞ!なのに、聞く耳もとうとしなかったのは向こうだろ?」

「何言ってんのよっ!恭平が、産みたいなんて言うから話しがおかしくなっちゃったんじゃない!」

「産みたいなんて言ってないぞ、産むとしたら?って聞いただけだろ?」

「どーすんのよっ!」


バカァ!


「どうするって、ここじゃ、設備もねぇって、言われたしなぁ」

「桜ヶ丘先生に謝って、何とかしてもらおうよ」

「まいったな」

恭平は頭を掻いた。

「戻って来ないね」

あたしは、桜ヶ丘先生が去って行った方を見た。

その場で、五分ほど待ったけど、戻って来る様子はなかった。

「行くか」

「だって!」

「大丈夫だって。今ここにいたって、何にもできねーんだったら、一度戻ろうぜ」

「……うん」


なんで、こうなっちゃうかなぁ。


あたしは、頭が痛かった。

桜ヶ丘南産婦人科病院を出ると、太陽の暑さと湿度があたしの身体にまとわりついた。

時刻は一時。

「どっち行く?」

「アパート」

恭平の家に足をすすめた。

「ねえ恭平。ホントに赤ちゃんいるの?」

あたしは恭平に聞いてみた。

「……わかんねぇ。あぁやって、調べられたりしたらいるみてぇだけど、俺自身はいるような気はしねーよ」

「そーだよねぇ。どう見たっていつもとかわんない恭平だよねぇ。じゃあさ、旅行の計画たてようよ。行けるんでしょ?」

「……そーだな。気分転換に旅行行くか。何が妊娠だよなぁ」

「そーそー。妊娠より旅行だって」

あたしと恭平は、妊娠という現実から避けて娯楽に思考を向かわせようとしていた。

恭平とデートの時によく待ち合わせをしていた公園の中を歩いていた。

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