君とみた未来
「あの人じゃない?」

あたしは、恭平に言った。

「かもな。ツバって言ってるし」


ホントにツバなんだ。


どんな漢字なんだろ。


女の人は、恭平に抱っこされているツバ君を見つけると、慌ててこっちに向かって駆け足で近寄って来た。

「す、すみません。うちの翼がご迷惑おかけしまして」


ツバサ?


あー、翼君かぁ、そりゃそうだよねぇ。


あたしは、心の中で一人納得していた。

「一人で、向こうの方で泣いていたので……でも、お母さんを探して、年齢も名前も言えるしっかりしたお子さんでしたよ」

恭平が、翼君をお母さんに渡しながら言った。

「すみません。興味のある物に気をとられると、あっという間に消えていなくなってしまうんです。さっきは、蝶々がいて追いかけていたら私の視界からいなくなってしまって、本当にすみませんでした。つば、お兄さんとお姉ちゃんに、迷惑掛けてゴメンナサイと、優しくしてくれてアリガトウを言いなさい」

あたしのこと、お姉ちゃんだって、なんかくすぐったい。

翼君は、恭平の顔を見て「たい」と言って、膝を少し曲げた。


かわい。


あたしは、翼君につられてニッコリ笑った。

翼君は、二歳になったばかりだと教えてもらった。


でも、このお母さん、よく見ると年齢がけっこういってるように見える。


三十……四十代かなぁ……。

翼君の今の年齢からみたら、高齢出産だったんだろうなぁ。

「翼君って、他にも兄弟がいるんですか?」

あたしは、聞いてみた。

お母さんは、少し寂しそうな顔をして「この子だけよ」と答えてくれた。

そして、矢木早智子と名乗ってくれた。

「じゃあ可愛くて可愛くて、しょうがないでしょう」

恭平が矢木さんに聞いた。

「そうね、私が望んで来てくれた子だもの。可愛がろうと、大切に育てようと、毎日考えながら生活しているわ」

そう言うと、矢木さんは泣きだしてしまった。

「どうしたんですか?」

「大丈夫ですか?」

あたしと恭平は、慌てて矢木さんに声をかける。


「ごめんなさい……」

矢木さんは、両手で顔を覆ってしまった。

< 23 / 94 >

この作品をシェア

pagetop