君とみた未来
赤ちゃん産む方法より、ちゃんと中絶の話しもしてよ。

前みたいに怒り出して、また出てけなんて言われたら、もう、どこも行くとこないんだからね!

「覚悟が必要ですよ」

若月先生は、これまで以上に真剣な顔つきで恭平を見た。

「わかってます。覚悟はできてます」


なに?


何の話ししてるの?


中絶は?


「恭平?何の話ししてるの?大事な話ししてないじゃない」

あたしは、恭平の服をつまんで聞いた。

恭平は、体の向きをあたしの方に向けて、静かな声で話した。

「樹理、俺、決めたよ。赤ん坊産むことにした」

!!!!

「な、何?突然!聞いてないよあたし。昨日そんなこと言ってなかったじゃん!中絶して旅行行こうって話ししてたじゃん!」

あたしは、突然の恭平の話に頭も気持ちもついていかなかった。

「若月先生。恭平が赤ちゃんなんか産めないでしょ?無理だよね!そうでしょ?無理だよね!?」

あたしは若月先生に必死に聞いた。

「樹理、落ち着けって。樹理」

「樹理ちゃん落ち着いて、まだ可能性の話ししかしてませんから」

「すみません。こいつがこんなに取り乱すなんて。連れて帰ります。明日また来ます」

あたしは、恭平に支えられたままアパートへ戻った。

何にも聞きたくなかった。


恭平が、あんなこと言うなんて、考えてもみなかった。


恭平が、あんなこと思っていたなんて、考えてもいなかった。


「樹理、ちょっといいか?」

恭平が、話しかけてきた。

あたしは、恭平に背を向けた。

「……この前、翼君のお母さんと少し話しただろ。その時から考えてはいたんだ」

「聞きたくない」

「翼君のお母さん、中絶したことあるんだ」


え?


「十代の時妊娠して、軽い気持ちで中絶をしたらしいんだ、赤ちゃんはまたいつでも産めるって。今は、遊びたいから子供は要らないって。その一回の中絶で、子供が産めない体になってしまったらしい」

「そんな!」

あたしは、思わず恭平の方を向いてしまった。



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