君とみた未来
「かなり後悔したらしいよ。一度でも授かった命は、簡単に切り捨てちゃいけないんだ。産まれてこようとしている命を自分の我がままで、途絶えさせちゃいけないんだ。矢木さんは、ずっと後悔の念にかられて今も生きてるんだよ。そして、施設にいた翼君を引き取って育ててるんだ。その時に俺さ、初めて思ったんだ。それは、女だろうが男だろうが関係ないんじゃないかって。俺が、今回中絶したら、また妊娠するなんてあり得ないと思うけど、今、ここに新しい命がいるなら殺しちゃいけないんじゃないかって。もし、中絶したら俺も後悔するんじゃないかって」


恭平……。


「正直怖いよ。産む事だって、中絶する事だって、今日の検査でさえ怖かったんだから。でも、矢木さんの言葉が頭から離れないんだ」


命が大切なのはあたしだってわかるよ。


でも、素直に産もう。なんて言えないよ。


「男の人が赤ちゃんホントに産めるの?」

「わかんねぇよ。若月先生にちゃんと聞かないと、若月先生だってポーカーフェイス気取ってるけど、内心悩んでると思うぞ」

「あたし、ちゃんと無事に産めるって言ってもらえないんだったら賛成なんかできない。恭平が産みたくたって、中絶してもらうから」

「……わかった。話し、ちゃんと聞こうな。俺と樹理の子供だもんな」


恭平と、あたしの、子供?


恭平と、あたしの。


子供?


あたし、中絶を考えてるの?


あたし達の子供を?


あたし。


あたしの子供を、この世に誕生させないように考えてるの?


あたしの気持ちは、今まで以上に複雑になった。



―ニコニコ産婦人科病院―

若月先生は、昨日と変わらず優しい表情であたしを見た。

「昨日はごめんなさい」

あたしは、若月先生に謝っていた。

恭平が迷惑をかけたと思うんだったら謝れって。

迷惑をかけたら謝るのは常識だって。

あたしの本音は半分半分で、迷惑はかけたのかもしれないけど、別にいいじゃん。

みたいな……。

だって、気が動転するようなことを恭平が突然言うからいけないんだし。

恭平も一緒に謝った。

「本当にすみませんでした」


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