君とみた未来
泣きながら母さんに謝っていた。

そんなあたしに、母さんは、うんうんと、あたしの頭をなでながら、家に歩かせようとしていた。

家に着いて、雪を払いのけて、数ヶ月ぶりの我が家に足を入れた。

「ココアでも飲むかい?」

台所に立ちながら、母さんが話しかけてきた。

「うん。ありがと……」

あたしは、居間に入ると、いつも自分が座っていた場所に腰をおろした。

そして、泣かずには、いられなかった。

緊張の糸が一気に切れたみたいで、涙を止めることが出来ないでいた。

まだグズグズ泣いているあたしに母さんがココアを持って来てくれた。

「飲みな、温まるから。話しは、それからでもいいだろ」

あたしはマグカップを両手でしっかりと包み込んで、一口二口とココアをすすった。

「あったかいね」

あたしが、ボソリと言う。

「当たり前だろ、母さんが入れてんだからね」

「おいしいね」

あたしが、もっと小声で言う。

「愛情がこもってるからね」

「……母さんっ。お母さんっ!」

あたしは、母さんに抱きついていった。

母さんの大きな体は、あたしをすっぽり包み込んで、まるで壊れそうなおもちゃでも抱いているかのような手つきであたしを抱きしめ、すぐあたしを引き離し、パンッとあたしの左頬を張り倒した。

「目が覚めたかいっ。母さんの言うこと聞きゃしないで出てくからこんなことになるんだよっ。まだヒヨッコの癖に言うことだけはいっちょまえで、見てるこっちは、イライラしてくるよ。あんた達に何があったか知らないけどね、自分からこの家を出て行ったんだ、明日になったら、この家から出てっておくれよ」


 そうだ、あたしは、自分から(理由はどうあれ)この家を飛び出したんだ。


母さんの思いも頭の片隅にも入れないで。


ケンカ腰に言い争って、目の前のことしか考えないで、恭平のことだけしか考えられなくて、恭平の側にいなくちゃって、それだけしか考えられなくて、そう思って。


だから、恭平が分からなくなった今、あたしは、誰かに頼りたくて、こうして、怒られるのが分かってても、母さんのとこに帰って来ちゃったんだ。


< 57 / 94 >

この作品をシェア

pagetop