君とみた未来
「ん?いろいろね、樹理ちゃんには言わないでくれって言われてるから、これ以上は教えられない」

恭平が話しに加わった。

「俺の体のこと、どういうふうに話してあるんですか?」

「超音波断層法やドップラー法のコピー。それと尿検査、血液検査のカルテのコピーなど、見せられる範囲のもの全て見せてあります。妊娠している女性達とほとんど変わりなく、赤ちゃんは成長していることも毎回書いときました」


なんてすごい先生なんだろう。


この先生がいなかったら、あたし達は、赤ちゃんを産めなかった。


この先生がいなかったら、あたし達は、母さんに許してもらうことは、なかったかも知れない。


なんて、なんてお礼を言えばいいんだろう。


有難うございます。じゃ、とても足りない気がする。


「と、言うわけなんだ」

若月先生が、言葉をしめた。

感激のあまり、何も言えないでいた。

三人とも無言になった。

…………。

頭の中が、真っ白だった。


あたし。


何にもしてない……。


恭平も、若月先生もこんなに母さんのこと考えてくれていたのに……。


あたし、何にもしてない。


会いに行かなきゃとか、どんな方法でも報告しなきゃとか、ぜんぜん考えもしなかった。


「ごめんなさい」

あたしの言葉に恭平と若月先生が驚いた顔をした。

「ごめんなさい」

あたしは、もぅ一度謝った。

「どうした?」

恭平が優しく聞いた。

「あたし、何にもしてない。母さんのこと、気にしてなかったわけじゃなかったけど、でも、考えないようにして何もしてなかった。恭平が、毎日母さんに会おうとしてくれてたなんて知らなかったし。若月先生が母さんに報告してくれてたなんて知らなかった。あたし、娘なのに、母さんに一番認めてもらいたいって、そう思ってたはずなのに、あたしが何にもしてなかった。だから、ごめんなさい。あたし、ちゃんとするよ、これから、ちゃんとするよ。ごめんね、恭平。ごめんなさい、若月先生」

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