君とみた未来
あたしも立とうとしたら、あんたはここにいなさい。と、母さんに止められた。

「何かあった時、母さんより、樹理がいた方がいいだろ?」

「ありがと」

そう言って母さんは、部屋を出て行った。


一体、いつになったら終わるのかな……。


まさか、失敗……なんてことはないよね。


ここまで来たんだから。


いろんな事あったけど、やっとここまでたどり着いたんだから。


だから、若月先生お願いっ!無事に赤ちゃん、産ませて!

時計の針は、夜の七時を回っていた。


まだかなぁ、何やってんだろ。


突然ドアが開き、看護士さんが顔をヒョイと覘かせて「今から出産に入るよ。何か伝えることある?」と聞いてきた。

「あ、《頑張って》って、《宜しくお願いします》って……」

「はい」

看護士さんはニッコリ微笑んで行ってしまった。


これから出産?


じゃ、今までのは何だったの?


検査って、こんなに時間かかるの?


これから、出産って……何時間かかるの?


「樹理、ドア開けとくれ」

廊下から母さんの声が聞こえた。

あたしは慌ててドアを開ける。

母さんは、両方の手に持てるだけのビニール袋をぶら下げていた。

「どうしたの?こんなにいっぱい」

「これから使う物だよ」

あぁ疲れた、と言ってソファーにひっくり返った母さんにあたしは言った。

「ねぇ、恭平ねぇ、今から出産なんだって、今、看護士さんが来たんだよ」

そうかい。と言って母さんはビニールの中からパンを取り出した。

「お腹すいただろ?」


そういえば、お昼ご飯も食べてなかったんだ。


「長期戦になるのは覚悟のうえだよ。向こうだって頑張ってるんだ、あたし達だって、体力つけて準備しとかないとね」

と言って母さんは、さっさと食べ始めた。


強いなぁ、この人は。


つくづく感心してしまう。


時計の針は、夜の十時を回っていた。

向こうからは、まだ何も言って来ない。

「まだかなぁ」

あたしは、少しずつイライラしていた。

母さんは、恭平が使っているベッドで寝ていた。
 
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