君とみた未来
恭平は、病院を出た後、まっすぐあたしの家に寄った。

「……という訳で、紹介状を書いてもらって来たんだ」

病院でのいきさつを話し終えた恭平は、紹介状を背広の胸ポケットから出しながら言った。

「どこの病院って書いてあったの?」

あたしは、恭平にお茶を出しながら聞いた。

「いや、まだ見てない」

「病院から帰ってくる間、何も見ないで帰って来たの?」

「一人で見るのはちょっと、な……」

「なによ意気地なし。かして」

あたしは、恭平から紙を奪った。

あたしが見ようとすると。

「待った。俺が見る」

恭平が、紙を奪い返した。

そして、四つ折の紙を広げて中を見る。

…………。
 
ゴクッ。

生唾を飲み込んだ音が聞こえた気がした。

紙を開いた恭平は、文字を読んでから動かなくなった。

紙が、ヒラヒラと舞って、畳に落ちた。

「どぅしたのよ。どこの病院?精神科なんて書いてあるわけ?」

あたしは、もちろん冗談で聞いた。

そして、あたしも紙を拾って覗き込む。


『桜ヶ丘南産婦人科病院』


紙には、大きな字でそう書かれていた。

「さ、さくら……が、おか……みなみ、さん……ふ……じん……か?」

あたしの頭の中が真っ白になっている。


サンフジンカ?


えっ?


産婦人科?


「恭平、これ、サンフジンカって読むよね?」

あたしは、恭平に聞いた。

恭平も、あまり動いていないが、頭を縦に振っている。

「……ま、間違えて、違う紙持ってきたんじゃ、ないの?」

あたしの声が、少しかすれていた。

「だって、この紙くれたんだぞ。病院の先生が」

「い、行くの?」

あたしは、声をさらに嗄らしながら聞く。

恭平は、生唾を、今度ははっきり聞きとれるくらい。

ゴックン。

と、鳴らしながら。

「さ、産婦人科って、ニ、ニンシンとかそういうイメージが強いから、ちょっと、い、行きづらいけど、でも、普通の病気を産婦人科でしか治せないんなら、行くしかないだろぉ。内科も入ってるのかもしれないし……。ダイジョーブダイジョーブ」

と、声を裏返しながら言った。



< 9 / 94 >

この作品をシェア

pagetop