お嬢様とヤンキー


父は忙(せわ)しく登場したが、

場の空気はピリッと乾いた。


「遅くなってすまない。食事は始めていいと言っといたんだが・・・」


「そうもいきませんわ」


澄ました顔で母が言う。


普段からしなやかに、上品な振る舞いをみせる母だが、


父の前ではより一層、神経を使っているようにみえる。



ユリ子は今、口にするべきでないと判断した。

食事が落ち着いたら話そう。




食事は静かに進んでいた。




食事中に音をならしてはなりません。

お食事のマナーから、お嬢様に必要なものをすべて学んだ。


習い事もした。

バレエ、ピアノ、茶道、華道、書道にお料理教室にも通った。


お嬢様高校へ進学した今も佐瀬家のご令嬢として振る舞い続け、


完璧なお嬢様として育て上げられたユリ子。




ただ、ユリ子は「お嬢様」と言われるのが嫌だった。

かわりに、お嬢様っぽくないと思われたいと思っている。





だって、優美な挨拶に、しなやかな手つき。

きらびやかな笑顔。

ひとつひとつが美しすぎてユリ子はあまりにも目立つ。




ユリ子はお父様のウワサを思い出した。




< 3 / 147 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop