お嬢様とヤンキー
父は忙(せわ)しく登場したが、
場の空気はピリッと乾いた。
「遅くなってすまない。食事は始めていいと言っといたんだが・・・」
「そうもいきませんわ」
澄ました顔で母が言う。
普段からしなやかに、上品な振る舞いをみせる母だが、
父の前ではより一層、神経を使っているようにみえる。
ユリ子は今、口にするべきでないと判断した。
食事が落ち着いたら話そう。
食事は静かに進んでいた。
食事中に音をならしてはなりません。
お食事のマナーから、お嬢様に必要なものをすべて学んだ。
習い事もした。
バレエ、ピアノ、茶道、華道、書道にお料理教室にも通った。
お嬢様高校へ進学した今も佐瀬家のご令嬢として振る舞い続け、
完璧なお嬢様として育て上げられたユリ子。
ただ、ユリ子は「お嬢様」と言われるのが嫌だった。
かわりに、お嬢様っぽくないと思われたいと思っている。
だって、優美な挨拶に、しなやかな手つき。
きらびやかな笑顔。
ひとつひとつが美しすぎてユリ子はあまりにも目立つ。
ユリ子はお父様のウワサを思い出した。