お嬢様とヤンキー

───ユリ子はもうどこへでも嫁へやれる。

どこまで本当かはわからないが、父はそう言ったというのだ。




そして、今。

父が信じ難いことばを口にする。


「ユリ子、婚約者を紹介したい・・・・・・」




ユリ子の手からナイフがすべる。



カシャーーーン




「ご、ごめんなさい」

ユリ子は拾おうと手を伸ばした。

こんなこと。

最近は滅多に落とさなかったのに。



「お止めなさい、ゆり子。はしたない」

伸びた手を引っ込めた。

落ちたものを拾うなんてマナー違反だ。



「はい。お母様」

ユリ子は姿勢を正して、目の前に座る父と母を見直した。




隣でナイフを拾う執事へ向かないように、と。




「今、急成長を遂げている会社の社長の息子だ。これが写真なんだが・・・」

執事がきちんと用意していた。

すぐに父の手元に渡る。


写真を広げると、

父はなんの疑いもなくユリ子も気に入るだろうといった、

自信ありげな目でユリ子をみた。


とても誠実そうな好感をもてる人だった。




でも、違う。

結婚って一生ともに過ごす人を決める大事なことなのに。




「お父様。私、結婚はまだ考えていません」

ユリ子は手をとめて、言い切った。



父は眉をひそめ、空気がひんやりと冷たくなる。



どうやらユリ子は父の怒りに触れてしまったようだ。

絶大な権力を持つ、この人に。



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