上海ふたりぐらし
初めて上海に来たのに、観光らしいことを何もしていなかったので、せめてパンダを見せてやりたいと思い上海動物園へ行くことにした。私自身とても期待していたのに、檻の中にいたのは、想像とは似ても似つかね、白黒はっきりしないパンダ。しかも後ろ向き。後で聞いた話によると、パンダはいつも灰色で、動いているところを見ることができた人は、運がいいらしい。
 私たちは気をとりなおして、もうひとつのお目当て、金糸猴(キンシコウ)を見に行くことにした。だけど、どうしても辿り着けない。どうやら、案内の表示が間違っているらしい。広大な敷地をあてもなく歩き回るのは、5歳になったばかりの息子には、そろそろ限界だ。仕方なく金糸猴(キンシコウ)はあきらめ、そばの池でボートに乗ることにした。
 小さな池で、何組かの親子が楽しげにボートに乗っている。息子もきっと喜ぶだろう、と思ったが、ここでまたトラブル発生。誰にでもできると思ったのが大間違い。自分がどんくさいのを忘れていた。
 乗ってすぐボートは、前に進まずぐるぐると同じ場所を回り始めた。乗り場のおじさんが身振り手振りで、操作方法を伝えようとしているが、ボートはすごい勢いで回っているので、はっきり見えない。もしかして、ハンドルの向きが間違っている?そこで、私はハンドルを切った。すると、今度は反対回りに回転し始めた。しかも、さっきより早いスピードで。おじさんはそのうち叫びだし、息子は涙をこらえ、池に落ちるまいと、必死でシートにしがみついている。その横で気分が悪くなり始めた私は、なおもハンドルと格闘を続けていた。一体どっちに回せばいいの?とうとうあきらめて、ハンドルから手を離した。と、その途端回転が緩やかになった。その隙におじさんがボートを引き寄せ運転を代わってくれた。しかし、息子は楽しむ気力をすっかり失くしてしまい、おじさんの横で固まったまま動けないでいた。
 喜ばせるつもりが、とんでもない目に遭わせてしまった。「ごめんね。」ジェットコースターよりスリルがあるボート、留学しても絶対乗らない、と誓った。
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