上海ふたりぐらし
帰りに動物園の売店で、指人形型のぬいぐるみを買ってあげた。「よかった。」機嫌をなおしてくれたみたい。隣りの中国人は、「高い。」といって買わなかったが、10元でこんなかわいいぬいぐるみが買えるなんて、お買い得。私は、ラッコとうさぎの二つを息子に買ってあげた。でも、安いからと言って適当に選んではいけない。ここは、中国。念入りなチェックが必要だ。初めての上海だが、M太太に習って私は既に中国流お買い物術を身につけていた。
 中国では、買い物の際、値切り交渉するのが一般的。値段は買い手が決める。商品は細部まで、その場でチェックする。その場で。ここ大事。
 私は彼女に習い、数十体はある袋の中から、複数見せてもらい、汚れや破れがないかチェック。最後に顔立ちのかわいいのを選んだ。このときは値切らなかった、10元で適当だと思ったから。この後、ラッコは息子のお気に入りになり、上海生活も経験し今でも二人は一緒に寝ている。
 
 動物園を出てから、高級ホテルで飲茶を食べ、タクシーでホテルに戻った。走り始めてすぐ渋滞に巻き込まれた。10分経っても動かない。そのうち、車から人が降りてきて、同じ方向をじっと見ている。何事?
(あっ、反日デモ。)

 そういえば、昨日M太太が言ってたっけ。 
「明日は、たぶん反日デモ行進があるから、なるべく出かけないように。」
って。
 すっかり忘れてた。私の見たところ笑顔の人もたくさんいて、そんなに重々しい雰囲気ではなかった。が、私たちの乗ったタクシーの運転手が外にでて、車の中を指差し、
「ここに日本人がいるぞ。」
と、言ったときはさすがに緊張感が走った。数分後、車は動き出し無事に目的地へ着いた。
 暗くなるまでまだ間があるし、少し街を散策するつもりでいたが、やたらと警官が目につく。おまけに皆がこっちを見ているような気がする。しばらく通りを歩いていたが、どうやら気のせいではないらしい。中国人の視線が私たちを追ってくる。この5日間、いつもギリギリのところで何とかやり過ごしてきた。ここで何かあっては大変、と晩ごはんを調達し足早にホテルに戻った。
 次の日、早朝の飛行機で上海をあとにした。こうして、私と息子の上海下見旅行は終わった。

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