上海ふたりぐらし
私は留学の準備に二年の月日を費やした。問題はいろいろあったが、まず、本当に行きたいのか。子連れで行く覚悟があるのか。それを確かめるのに一年くらいかかった。
 当時、私の結婚生活は既に破綻していた。もっとも、そう思っていたのは私だけだったようだけど。さまざまな原因の末、たどり着いたのは「離婚」の二文字だった。好きじゃない人とは、もう暮らせない。これが私の出した答えだった。しかし、簡単にはいかない。子供もいるし、病気の姑もいる。が、私は両方やり遂げると決めた。留学のために離婚を決めたのではない。たまたま思い立った時期が同じだっただけのこと。
 教育の問題なども考慮して、息子が小学校に上がる前に行きたかった。すぐに留学したかったが、やはり慎重にしないと。私は一人で行くんじゃない。時間をかけて、離婚と留学の準備を同時に進めることにした。それから姑の面倒も。結婚しているあいだは、きちんとお世話をしようと思っていた。
 息子を幼稚園に送った後、姑のいる病院まで行き洗濯物を持って帰る。夫の目を盗んでは、図書館から借りてきた本で離婚に対する知識を得、息子が寝てからは、インターネットで中国留学の情報を集めた。私は、母だ。息子を守るため、両方やり遂げなければ。失敗は許されない。
 特殊な病気のため、姑の世話には思いのほか時間を取られた。しかし、午後2時過ぎには息子を迎えに行かなくてはならない。一日一つずつしか用事が片付かず、昼食も取れず、風邪をひいても病院に行けない、そんな日々が続いた。
 同じ年にひいた二度目のかぜをこじらせた。声がでない。咳も止まらない。のどが痛くて満足に食事も摂れない。仕方なく病院へ行き、レントゲンを撮ってもらった。すると、ほとんど治っているが、肋骨にヒビが入ってるらしい。心当たりはあった
 一ヶ月ほど前、くしゃみをした時に「グキッ」と大きな音がして、痛くてしゃがみこんだことがある。咳のし過ぎで肋骨が弱っていたんだろうか。
< 2 / 39 >

この作品をシェア

pagetop