上海ふたりぐらし
 私はそんなに敏感な方じゃないので、ある程度のことは我慢できる。特に何も気にならなかった。確かに始めの3ヶ月ぐらいは、自分の鼻が臭かったけど。最初は何が臭いのかわからなくて。何の臭いか、手が臭いのか、とにかくずっと臭いのだ。しばらく原因がわからなかった。まさかと思って認めたくなかったけど、結論は、自分の鼻が臭かったのだ。交通量がどんどん増え、とにかく街全体がほこりっぽい。空気が汚れている。毎日そんな空気を吸っているんだ、鼻が臭くならないわけがない。でも、慣れというのは怖いもので、3ヶ月を過ぎたころから鼻が臭くなくなった。臭さに慣れてしまったようだ。
 それより私が気になったのは、ゴミの多さ。幼稚園の新聞紹介の授業でも何人かが取り上げていたけど、本音と建前は違うようだ。皆が捨てているからいいの?掃除する人がいるからいいの?若い女の子でも、歩きながらバナナを食べ、食べ終わると、ポイッ。到るところにパンの袋や食べ物の残骸が捨ててある。息子に言わせると、
「まち ぜんぶが ごみばこ だね」
 この街全部ゴミ箱発言が、後に「中国人は地球をゴミ箱にしている」に変わる。これは私が息子に言ったことばだが、中国人の友人に言うと、「誰が言ったの?その例え、すごくいいね。」と妙にウケていた。自覚があるということだろうか。

 他にもあまり好ましくないことがある。立ちション。若い子がしているのはさすがに遭遇したことないが、おじさんと子供は多い。小さい子供がトイレに行きたい、と言うと、トイレを探す前に、もうそこらで用を足している。そりゃ街が臭うはずだ。
 夜、散歩をしていると、息子がトイレに行きたい、と言い出した。いつもなら急いで家まで走って帰るが、その日はどうやら間に合いそうになかった。拒み続けていたが、我慢も限界に達し、木陰で用を足したあと息子が一言。
「あー とうとう ぼく ちゅうごくじんに なって しまった」
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