上海ふたりぐらし
 5ヵ月後、初めて帰国したとき息子が言った。
「おかあさん にほんは こじきが すくないね」
 一瞬、何と答えていいかわからなかった。少ないというか、もしいても中国で見るような類いのものはいないだろう。息子の目に彼らはどう映っていたのだろう。
 地下鉄の中、バス停、観光地や人の多く集まるところに彼らはいる。彼らを見ない日はない。あらかじめ小銭の入ったコップを持っていて、目の前で止まり上下に振る。ジャラン、ジャランと音がする。たいていは体の不自由な人。生まれつきかそうでないかはわからないが、形容しがたい人達がたくさんいる。生まれつきでない場合、生きるために、こじきをするために(同情をかうため)わざと、不自由な体にする場合もあると聞く。なんともひどい話だ。
 赤ちゃんや幼い子供を連れた母親もよく目にする。聞くところによると、彼らのほとんどは本当の親子ではないらしい。さらわれてきたのだ。2、3歳の子供が目の前にひざまずく。彼らに表情はない。人生で最初に学ぶことが、人の前でひざまずくこととは、何て悲しいんだろう。
 彼らが側に来ると、わざと息子の注意を別の方向にそらしたり、なるべく目に触れないようにしていたつもりだが、息子はしっかり見ていたのだ。
 来年オリンピックが行われる国だ。2010年には世界博覧会も開催される。上海よ、中国よ、このままでいいのか!


















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