上海ふたりぐらし
鍵の件が解決したあと、次の問題は電話だった。上海に着いたら連絡しないといけない人が二人いた。一人は日本で中国語を教えてもらっていた先生でもあり、友人でもある徐小姐。もう一人は、上海の情報を調べているうちにネット上で知り合った、M太太。太太(タイタイ)とは、中国語で「奥さん」のこと。M太太が息子の幼稚園探しの力になって下さる、ということだったので、何としてでも連絡をしなければいけなかった。
 部屋に戻った後、私は電話をかけてみた。受話器から中国語が聞こえてくるが、早すぎてチンプンカンプン。そこで、さっきの女の子に助けてもらおうとしたが、焦って「電話をかける」という簡単な言葉さえ思い出せない。今までの勉強は何だったんだろう。私は身振りで伝えるしかなかった。
 彼女が部屋まで来て試してくれたが、やはりダメらしい。でも、どうしてダメなのかは、やはり聞きとれなかった。早く電話しないと、彼女たちきっと心配しているはず。こうなったら、外へ行ってかけるしかない。でも、外で電話をかけるにはどうしたらいいの?
 焦るとすぐパニックになる私は、自分に言い聞かせた。
「まず、落ち着いて。それから頭を整理しよう。」
 外へ行って電話をかける→まずテレフォンカードを買う→テレフォンカードを買うためにはお金が要る→中国元が要る→両替→空港からのタクシーで、日本から両替してきたわずかな中国元をほとんど使ってしまった→→
「あっ、両替に行かなきゃ。」
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