上海ふたりぐらし
今思えば泊まっていたホテルで両替できたかもしれない。いちおう三ツ星だし。でも、焦った私はできないと思い込み、地図で有名ホテルを探した。もう、夕方近くになっていたので、銀行が開いているかどうかわからなかったし、ホテルの方が手続きが簡単だと思ったから。
 ホテルに着いて日本円を出すとルームナンバーを聞かれた。宿泊客しか両替できないんだっけ?何も考えられない。電話、電話と、頭の中はパニック状態。せっぱ詰まった様子が伝わったのか、三枚出した福沢諭吉のうち、一枚だけを抜き取って、何枚かの毛沢東と替えてくれた。私は「謝謝~」と、何度も繰り返しながらホテルを後にした。
 次はテレフォンカードを買わなきゃ。これはすぐに見つかった。中国では街の到るところに新聞や雑誌を売っているスタンドがある。いわゆる売店。テレフォンカードもそこで売っている。あとは、公衆電話さえ見つかれば任務完了だ。幸いその売店のおばちゃんが親切で、カードの種類やかけ方、公衆電話のある場所まで教えてくれた。
 こうして、ようやく彼女たちに電話をかけることができた。両親にも安否を知らせた。電話の最中、息子は私の隣で、疲れただのお腹がすいただのと半ベソをかいている。だけど一体どこでごはんを食べればいいの?こっちが泣きたいよ~。電話ボックスから出て、目の前にローソンを発見した時の私たちの喜びようと言ったら。
 カップラーメンとおにぎりを買った私たちは、足早にホテルに戻った。着いたときには外はもう真っ暗だった。例の彼女に鍵を開けてもらって、遅い夕食を食べた。私は、何てわびしいんだろうと思いながら。ラーメン好きの息子は手をたたいて喜びながら。

 疲れきった息子を先に寝かせ、私は再び頭の中を整理した。明日はM太太と会って、幼稚園のことを相談して・・・・・・ あー、それにしても何てひどい一日、まだ初日だっていうのに。子連れで留学なんて、やっぱりムリなの?たかが電話ひとつに何時間もかかって。今、これが留学の下見じゃなくて、ただの旅行だったらどんなに気がラクだろう。どんどん落ち込んでいったが、ここでストップ。私は気を取り直して自分に言い聞かせた。
「ダメ、悪い方に考えちゃ。明日はきっといいことある。」

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