お大事にしてください
サンドイッチを頬張りながら、ふと鞄の方に目をやった。
(そう言えば、俺は何を買ったんだ?)
さっき入った店の袋に、シミがついている。汗ばんだ手で持っていたせいだろう。薄茶色の袋が情けない姿になっている。
片手でサンドイッチ、片手で袋を開けた。注意が袋にいっているせいで、サンドイッチのトマトを落としてしまった。
「あっ。」
大声を出すと何人かの客が、文太の事を見ている。小さくなるわけのない体を小さくし、その視線を避けた。
「あぁ、買ったばかりだって言うのに・・・。」
スーツに落としたトマトのせいで、シミが出来ていた。
「ったく、ホントついてないな。訳のわからない物買わされるわ、スーツにシミは出来るわ・・・。これでくだらないものなら、文句の一つも言いに行ってやる。」
シミを見つめながら、呟いた。
袋を逆さにし、中身をテーブルの上に転がした。さっき持った感じは紙の箱だった。壊れる事はないだろう、そう踏んでいた。が、予想に反して何か割れる音が聞こえた。
その音を聞いて、また何人かの客が文太の方を見た。恥ずかしい事この上ない。
「いったい、なんなんだ?」
テーブルの上に出した物は、やはり紙の箱だ。袋と同じように、薄茶色の箱だ。
「と言う事は、中に瓶でも入っているのか?」
箱には何も書いてない。少し薄気味悪い感じもしたが、開けずにはいられなかった。
「やっぱり・・・。」
中で瓶が割れていた。しかし、その瓶に貼られていたシールのおかげで、その形を保っていた。シールには何か文字が書いてある。
痩せ薬。
(あのジジイめ、中身がこれだと知っていたから、ニヤニヤ笑っていたのか。)
腹が立った。文句を言いに行ってやる、そう思った。でも、出来なかった。どうしても、医者に言われた言葉が忘れられなかったのだ。
「まぁ、いい。」
一人、納得し店を出た。
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