お大事にしてください
「ど、どっちがすぐに効きますか?効く方、効く方を下さい。」
「効く方と言われましても・・・。お腹の症状がわかりませんと、何ともご案内致しかねますが。具体的にどのような痛みでしょうか?」
幸はお腹が痛いと言えば、腹痛だと決め込んでいた。しかし、よく考えればお腹が打ち身のように腫れたり、腹痛以外の症状もあったりする事に気がついた。それでも自分の表情を見れば、気がついてもいいのではないかと、気持ちが苛ついた。
「腹痛です。たぶん、食べ過ぎで・・・。早くしてっ。」
老人が自分より小さい事も手伝って、かなりの命令口調になった。
「では、こちらをどうぞ。水と一緒にお飲み下さい。」
幸の事を気にする様子もなく、ガラスのショーケースの上に薬を置いた。当然、そこには飲むための水はない。
「水も、もらえませんか?」
てっきり、コップに水を入れて差し出してくれるものだと思っていた。その期待を老人は見事に裏切ってくれた。幸の後ろにある冷蔵庫を指さした。そこには、たくさんのミネラルウォーターが置かれていた。
「百五十円です。」
「えっ。」
「あ、薬代も一緒だから、千五百円になりますね。」
老人は右手を差し出した。
財布の中を確認すると、千円札が一枚と何枚かの小銭が見えた。老人の言う金額に届くかどうかと言った感じだ。しかし、幸には選択肢はない。なけなしの金を老人に差し出した。
「毎度ありがとうございます。」
いやらしい笑みを、幸は一生忘れないと思った。
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