お大事にしてください

さようなら7

「すいません。」
走って戻ってきたせいで、伊織は汗だくだ。
「はい・・・、なんでしょう？」
笑いを堪えるのに、老人は必死だ。それが何とも言えないぎこちない表情を作り出している。
「さっきのお釣り、お釣りが足りないんですけど。」
ぶっきらぼうな言い方だ。暑い中、走ってきたから機嫌が悪いのだ。
「あ、そうでしたか・・・。申し訳・・・ありません。今、確認しますので・・・少々お待ち下さい。」
店の裏に、何かを確認しようと向かった。と思うと、すぐに戻ってきた。
「すみません。少しお待たせするかも・・・知れませんから、これ・・・、これでも飲んでいて下さい。」
ガラスで出来た冷蔵庫から、なんやらドリンクを取り出し、伊織の前に差し出した。
「あ、すみません。」
たった二百円の事で申し訳ない気もしたが、伊織は遠慮なくそれを飲み干した。
「はぁ、生き返るぅ。」
渇いた喉には堪えられないおいしさだ。
飲み終わって、少しもしないうちに老人は裏から戻ってきた。
「お待たせしました。やはり、間違っていた・・・ようですね。はい、足りなかった二百円・・・です。申し訳ありません。」
深々と、老人は頭を下げた。
「いえ、こちらこそ。ドリンク、ごちそうさまでした。」
伊織も頭を下げ、店を出て行った。