お大事にしてください
和やかな会話をしていると、意外に気がつかない事が多いものだ。その異変に、はじめに気がついたのは、一也だった。
「なぁ、お前足大丈夫?」
「何が?足がどうかした?」
幸は自分の足を見て驚いた。アザだらけだ。
「どうしたんだろ?どこにもぶつけた記憶ないんだけどな。」
「でも、内出血している所もあるぞ。きちんと手当した方がいいんじゃないか?」
憧れていなくても、幸も女の子だ。一也のやさしい言葉に、素直に従った。
「と言っても、この時間に保健室開いている訳ないしな。」
無意識に、ポケットに手を突っ込んだ。もう、それが癖になっていた。
あの薬だ。あの薬がポケットに入っていた。
「あ、私、薬持ってたんだ。この薬効くんだよぉ。どんな痛みでも、たちどころに消してくれるの。」
一也も、尚美も同じ話を、何度聞いたかわからない。そして、見た事もない薬に頼り切る幸を心配していた。
「なぁ、ちゃんとした薬の方がいいんじゃないか?」
「そうだよ。幸ってば、何かあるとその薬ばっか飲んでるじゃない。体に良くないよ。」
幸はあっけらかんと答えた。
「大丈夫だよ。ちゃんとした薬屋さんで買ったんだから。変な薬なんかじゃないって。」
「でも、飲み過ぎは良くないよ。」
尚美はよほど心配なのだろう。もう一度、同じように注意した。
「大丈夫だって。」
結局、幸が尚美の忠告を受け入れる事はなかった。
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