お大事にしてください
彼の名前は、小田六郎。商社に勤め続け、もうすぐ定年を迎える。妻は六郎に尽くし続け、今日も晩酌用のビールを用意していた。
「お疲れ様でした。」
六郎がグラスを持つと、すぐに妻はお酌した。平成の世にあって、この家庭だけは昭和が脈々と息づいているようだ。
「あぁ。」
それ以上の会話はない。ただ、黙々と食事を口に運ぶ。その間、妻は黙って六郎の顔を見ている。一番下の娘が嫁いでから、こうするようになった。それまでは、妻と娘が会話を楽しみ、それを気にも留めずに、六郎は食事をし続けると言った感じだった。
妻が珍しく口を開いた。
「ねぇ、あなた。」
「な、なんだ。」
「あなた、最近おかしくない?」
手に持ったグラスをテーブルに置いた。
「おかしい?何がおかしいと言うんだ?」
誰でもそうだと思うが、おかしいと言われて気分のいい者はいない。六郎も少し気分を悪くし、つっけんどんな答え方をした。
「お、怒らないでよ。別にあなたの事を悪く言うつもりじゃないの。ちょっと心配になって・・・。」
「心配?」
六郎にはわからなかった。一瞬、思い返してみても、特に心配されるような事には心当たりがない。
「だって、あなた最近、夜中に起きているみたいじゃない。今までだったら、朝まで地震が来ようが、槍が降ろうが起きなかったのに・・・。会社で何かあったんじゃないかなって。それで眠れないのかなって思ったのよ。」
驚いた。いつも寝室を出る時には、気をつけ、決して妻に気がつかれないように出ていたつもりだった。それを妻に問いただされるとは思いもしなかった。
「あぁ、そうか。起こしてしまったか・・・。すまなかったな。」
「それで会社で何かあったの?」
「それは・・・お前には関係ない。気にするな。」
それだけ言うと、六郎はダイニングから出て行ってしまった。
「お疲れ様でした。」
六郎がグラスを持つと、すぐに妻はお酌した。平成の世にあって、この家庭だけは昭和が脈々と息づいているようだ。
「あぁ。」
それ以上の会話はない。ただ、黙々と食事を口に運ぶ。その間、妻は黙って六郎の顔を見ている。一番下の娘が嫁いでから、こうするようになった。それまでは、妻と娘が会話を楽しみ、それを気にも留めずに、六郎は食事をし続けると言った感じだった。
妻が珍しく口を開いた。
「ねぇ、あなた。」
「な、なんだ。」
「あなた、最近おかしくない?」
手に持ったグラスをテーブルに置いた。
「おかしい?何がおかしいと言うんだ?」
誰でもそうだと思うが、おかしいと言われて気分のいい者はいない。六郎も少し気分を悪くし、つっけんどんな答え方をした。
「お、怒らないでよ。別にあなたの事を悪く言うつもりじゃないの。ちょっと心配になって・・・。」
「心配?」
六郎にはわからなかった。一瞬、思い返してみても、特に心配されるような事には心当たりがない。
「だって、あなた最近、夜中に起きているみたいじゃない。今までだったら、朝まで地震が来ようが、槍が降ろうが起きなかったのに・・・。会社で何かあったんじゃないかなって。それで眠れないのかなって思ったのよ。」
驚いた。いつも寝室を出る時には、気をつけ、決して妻に気がつかれないように出ていたつもりだった。それを妻に問いただされるとは思いもしなかった。
「あぁ、そうか。起こしてしまったか・・・。すまなかったな。」
「それで会社で何かあったの?」
「それは・・・お前には関係ない。気にするな。」
それだけ言うと、六郎はダイニングから出て行ってしまった。