お大事にしてください
「いらっしゃいませ。」
六郎よりも年上と思われる男が、しゃがれた声で挨拶をした。六郎の他には、客は誰もいない。なぜこんな所に店を出したのだろうと、六郎は不思議に思った。
「あ、はい。どうも・・・。」
別に用はない。いや、厳密には用があるのだが、その悩みを誰にも打ち明ける事が出来ずにいる。この店でも、自分の悩みを口に出す事はないだろうと思っていた。
「何かお探しですか?」
「あ、いや、あの・・・。」
戸惑った。
しかし、頭の中を過ぎるものが、すぐに頭の中を埋め尽くした。周りに客はいない。そして、これからしばらく客が来る事は、店の様子から判断してもないだろう。ここははじめての店だ。店主はどう見ても自分よりかなりの年上だ。きっとここで悩みを打ち明けても、明日には忘れているはずだ。そう思うと、素直に打ち明けた方が得策だ。
「実は・・・。」
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