お大事にしてください
目覚める15
六郎と同じか少し上くらいの男達が、ビールの入ったグラス片手に騒いでいる。店の中は、焼き鳥のけむりで、霞がかかっている。六郎にとっての異世界があった。店主と言う言葉が不釣り合いな、薄汚い親父に言われるがまま、小さな椅子に腰掛けた。
「とりあえずビール。」
差し出されたビールを一気に飲む。親父は店のそこここから発せられる注文をさばくのに必死だ。六郎のジョッキが空になっても気がつかない。
「すいません。」
声を出すが、周りの男達の声にかき消され、全く気がつかれる様子がない。
(しかたない。ちょっと、待つか。)
六郎はスマートな行動を好む。大声をあげて店主を呼ぶなどあり得ない。スマートに、格好良く、それをモットーにここまで来た。酔っているとはいえ、こんな汚い店に自分が来た事が不思議でならなかった。
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