お大事にしてください
河本は驚いていた。
(すごい、すごすぎる。この間、一人で謝りに来た時なんか、馬鹿だの、アホだの、死ねだの、さんざん罵られたのに。あの時は帰りに電車に飛び込んじゃおうかと思ったのにな。それがあんなに萎縮して、いいザマだ。)
頭を下げる事もなく、呆然と二人のやりとりを見ていた。そこに突然、大きな手が河本の頭を掴んだ。
「ほらっ、お前も頭を下げろ。」
会議室のテーブルは天然木の一枚板で作られている。よほどきちんと掃除されているのだろう、嫌味にならない程度に輝いている。そのテーブルに河本の広い額から浮き出ていた油がべっとりとこびりついた。
テーブルに頭をこすりつけられ、何度も、何度も謝らせられた。
「ほ、本当に申し訳ありません。」
河本の言葉は男に向けられたのか、文太に向けられたのかわからない。その様子から察するには、たぶん後者だ。痛くて、その痛みから逃れたくて謝っているように思える。ただ、必死に謝っている事だけは確かだった。
「申し訳ありません。」
文太も一緒に謝った。
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