狐面の主人
大量の死骸の向こうに、見覚えのある人影があった。
美しい、銀の長髪。
男性にしては華奢な身体つきに、不気味な狐の能面。
それは紛れもない、たった今、妖狐と対峙していた、炎尾その人だったのだ。
「ッ炎尾…様!」
五穂は慌てて、その後ろ姿に駆け寄った。
だんだんと近くなる、大切なその姿。
名を呼べば、その人はゆっくりと、こちらを見やる。
「ッ…!」
五穂は炎尾の胸に飛び込んだ。
まるで、母親の帰りを待ちわびた子供のように、必死で炎尾を抱き締める。
よく見れば、身体のあちこちに外傷が見られた。
生々しい血が流れ、無数の裂き傷があるなど、想像絶する戦いを物語っていた。
「……炎尾様ッ……。」
「………五…穂………。」
五穂の名を呼ぶその声は、この上ない程に弱々しかった。
だがそれでも、炎尾は生きている。
その事実が、五穂の心を満たした。