狐面の主人
「五穂……済まない……。
…心配をかけた、な……。」
その言葉に、五穂は首を横に振る。
「…いいえ………。
炎尾様が生きていて下されば…五穂はそれだけで、どれほど救われることでしょう…。」
温かな笑顔で迎え、もう一度、強く彼を抱き締めた。
ただ、炎尾に安堵の色は見られない。
何か、内に秘めた迷いを拭いきれずにいるように。
そんな炎尾の気持ちを知ってか知らずか、五穂が再度、顔を上げた。
仄かに、頬が赤い。
「…炎尾様……。
あの時、貴方様が仰ったこと…五穂めの勘違いでないのなら…もう一度……
…もう、一度だけ…仰っては、頂けませんか……?」
“あの時”とは、炎尾が命を捨ててでも、妖狐を倒すと誓った瞬間。
光を纏い、迷い無く突っ込んで行った、あの瞬間。
五穂に、微かに囁いた、あの、瞬間…。
「……………。」
炎尾は、微笑んでいた。