狐面の主人
「…五穂……。
面を…外してくれないか…?」
「っ!」
五穂は驚いた。
「…ですが…。」
面を外せば、元の狐の姿に戻ってしまう。
その姿になったとて、決して、嫌ではない。
しかし、今の傷のまま、元の姿に戻っては、身体への負荷が大きい筈。
それだけは出来ないと言うように、五穂は顔を伏せ、戸惑いを見せた。
そんな彼女の小さな肩をそっと抱き寄せ、壊れ物を扱うように、静かに語りかける。
「面越しではなく……真の姿で言いたいんだ…。
俺が…信じられぬか…?」
「いっ、いえ、決して!」
五穂は初め拒んでいたが、彼の声に、何か真剣な様子を感じた気がした。
そのため、ひとつ息をついてから、炎尾を真っ直ぐに見つめた。
「炎尾様を信じています…。
ですから…失礼致します…。」
五穂はまた、面の紐を緩めた。
紐は固そうに見えて、案外アッサリと解けた。
また、あの美しい、銀狐の姿になるのだろうか。
五穂の見慣れた、この人型を無くして…。