狐面の主人
【まったく…。叫ぶのが好きな女だな。
少し黙ってろよ、悪いようにはしないから。】
目の前の生き物が喋った。
五穂の口を塞いでいるのは、全身が赤黒い毛に覆われた、一匹の鼠だった。
二本の小さな前足を器用に使い五穂の唇を押さえている。
「ん、んん~…っ!」
五穂が、鼠の足をペチペチと叩く。
【何だよ。もう叫ぶなよ?】
コクコクと頷く。
鼠は言葉通り、前足を離した。
「ぷは…っ。
…あ、貴方、誰…?υ」
肩で息をしながら、目の前で仁王立ちしている鼠を見つめた。