狐面の主人
1
炎尾の寝室――
「…よし。」
いつも着ている、ゆったりとした着物は脱ぎ、
代わりに礼服を来た炎尾の姿。
相変わらず能面は被ったまま。
着付けは全て一人だけでしたらしく、帯が少々歪んでいた。
けれど、それを気にするよりも炎尾には気にかかる事があったのだ。
「粗相の無いようにせぬとな。
方々が着くまで、もう時間も無い。
五穂の準備は…。」
台所へ向かおうと、ふすまに手を掛けたとき、
ガラッ
「!」
「あっ…炎尾様…ッ!!
ご、ご、ご無礼つかまつりましたッ!!!」
素早くその場に土下座をする五穂。
癖なのだろうか。
炎尾はしばし呆気に取られていたが、ようやく正気に戻った。
「立て、五穂。
何かあったのか?」
五穂がゆっくり顔を上げた。
その顔は、輝いていた。
「…………。」