狐面の主人
「ふぅ……。
何故、私は主様に逆らう勇気が無いのでしょうか…。」
【あったらマズイだろ。】
また雨珠に帯を見てもらいながら、五穂は礼服を着付け始めた。
真っ白で、裾の長い着物。
さながら花嫁衣装のようで、五穂はほんのり頬を染めた。
「何より…私のような者が居ては…いけないのではありませんか…?
やはり今からでも、炎尾様にお断りを…。」
結びかけの帯から手を離し、五穂は廊下に向かった。
【ちょ、ちょっと待てよ!】
しかしそれを、雨珠が素早く制止する。
「何故お止めになるのですか?
では雨珠さんは、下働きが主様のご友人の方々の前で、沢山の粗相をするのを構わないと、仰るのですか…?」
【なんでそうなる。
違うって!
ただ、今五穂に居なくなられると、主殿が困るというか…。】
雨珠が語尾を曇らせた。
なんだか様子のおかしい雨珠を気にしたのか、五穂は出て行くのを止め、雨珠の前に屈む。
「雨珠さん…。
それは一体、どういうことでしょう…?
何故、私が行かぬと…炎尾様がお困りになるのですか…?」