狐面の主人











「ふぅ……。

何故、私は主様に逆らう勇気が無いのでしょうか…。」


【あったらマズイだろ。】


また雨珠に帯を見てもらいながら、五穂は礼服を着付け始めた。


真っ白で、裾の長い着物。
さながら花嫁衣装のようで、五穂はほんのり頬を染めた。





「何より…私のような者が居ては…いけないのではありませんか…?

やはり今からでも、炎尾様にお断りを…。」


結びかけの帯から手を離し、五穂は廊下に向かった。


【ちょ、ちょっと待てよ!】



しかしそれを、雨珠が素早く制止する。



「何故お止めになるのですか?

では雨珠さんは、下働きが主様のご友人の方々の前で、沢山の粗相をするのを構わないと、仰るのですか…?」


【なんでそうなる。




違うって!
ただ、今五穂に居なくなられると、主殿が困るというか…。】


雨珠が語尾を曇らせた。

なんだか様子のおかしい雨珠を気にしたのか、五穂は出て行くのを止め、雨珠の前に屈む。




「雨珠さん…。
それは一体、どういうことでしょう…?

何故、私が行かぬと…炎尾様がお困りになるのですか…?」


< 74 / 149 >

この作品をシェア

pagetop