狐面の主人
2
――
幾年前のこと…。
彼がまだ、名も無い一匹の、みすぼらしい白狐だった頃…。
厳しい冬の寒さの日のことだ。
飢えに苦しみ、彼は人里に降り立った。
しかし、彼は倒れた。
終にその命が絶えようとしたとき、
彼は救われた。
彼の前に現れたのは、一人の人間の少女だった。
年はおよそ六つほど。
降る雪と同じ、白い白い肌。
それに映える、黒い黒い髪。
幼子にしては、何とも奇怪で、何とも麗しかった。
その小さな腕には、籠一杯の魚を持っていた。
だが手は、霜焼けで赤く腫れ上がっていた。
この寒さの中、たった一人で、河で魚を取っていたのだろう。
この若さで、彼女はもう働いている。
貴族の屋敷の下働きにと、飼われているのだ。
愛も温かさも、何もかもを失ったような瞳。
その瞳は、虚ろだった。