Cool Lip
「…あ…」


「鞄、落ちてたぞ」


そこには、いつもどおり無表情の三上くんが、わたしの鞄を差し出している。


「おい…?」


「三上くん…」


わたしは一気に力が抜けて、崩れるようにしてその場に座り込んでいた。


「どうした?」


淡々とした口調だけど、なんとなくいつもよりも優しい響きを感じるのはわたしの願望の現れかもしれない。


「う、うぅん、何でもない。ビックリしただけ…」


そう言って立ち上がると、素直にお礼を言って鞄を受け取る。


珍しく三上くんはそのままじっと見つめてきたので、わたしは自然と頬が熱くなるのがわかった。


「―――水本」


「ははははいっ」


呼びかけられただけでドキドキする…


「君は僕より試験の成績を上回るんじゃなかったのか?」


「え…」


それって、暗にこんなところで何してるんだって聞いてる?
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