Cool Lip
『興味ない』


あの形のいい口から紡がれたこの言葉を聞いたのは、いつものように彼の帰宅を昇降口で待ち伏せていた時だった。


「興味ないって…」


淡々と靴をはきかえながら、立ち尽くしたままのわたしを見ようともしない。


「興味ないものに時間をさくほど暇じゃない」


事務的な口調でそう言って立ち上がった時、真っ黒な髪がさらりと揺れた。


ちょっ…


「待って!そんなの――」


急いで恐れ多くも彼の腕に食い下がるも、返ってきたのは氷よりも冷たい視線だった。


「…水本、そろそろ理解しろよ」


ぐぐっと手を払われると、


「いいかげん、もう僕につきまとうな」


そうして、一度も振り返ることもなくその堅物王子は離れていってしまったのだ。
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