Cool Lip
嘘と真実
「三上くん、この公式はこれでいいんだっけ?」


「…それも使えるが、こっちの方が簡単に解ける。例えば―――」


早朝、昨日と同じ空き教室で、わたしは三上くんの個人授業を受けている。


憧れた人が、今隣にいて。


内容は色気のイの字もなかったとしても、わたしはとても幸せだった。


「―――そろそろ、時間だな」


三上くんの終了の合図にほーっと息をついて、固くなった身体をうんと伸ばす。


「それじゃあ、明日もいつもと同じ時間に―――」


そう言ってさっさと片付け終えようとする三上くんに、わたしは言った。


「明日からは、もういいよ。二日間、教えてくれてありがとう」


笑顔で言うと、一瞬ぽかんとした三上くんに頭を下げる。


手早く荷物をまとめてそのまま出て行こうとするのを、三上くんが止めた。


「諦めたのか?」


「…諦めた?」


おかしなことを言う…。
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